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ファイナリスト(決勝進出)の私にはラストチャンスをプレーすることはできません。というより、プレーする必要がありませんと言ったほうが正確でしょうが、気合の入っているみんなのプレーぶりを見ていたら参加してみたくもなってしまいます。
各テーブルには番号札が置いてあり、各プレーヤーはトーナメント表で指定された番号の席につきます。そしてトーナメントマネージャーが開始時間を過ぎたら各テーブルを見まわって、相手の席が空席となっているプレーヤーを不戦勝とします。また時間までに席についていないプレーヤーにはペナルティーポイントを課します。
Intermediate division の決勝のスタートまでにはまだ一時間もあります。ルームメートの Christian がラストチャンスの第一戦を開始しましたので早速観戦することにしました。相手は名前は知りませんがかわいらしいおばさんでした。開始して2,3ロール目、Christian が 1pt にある相手のバックマンを打ち込んだところ次に相手はダンスします。まだボードの無くあるのは ace のブロットの Christian、なにを思ったかここでいきなりダブルします。(おーい Christian。ここでダブルするか?) それでアタックするつもりだったのでしょうが、逆にアタックされてしまいギャモンを落とします。相手のかわいいおばさんはかなり上手で、つぎのゲームもクローフォード独特の戦法を使いこなして、しっかりマッチを勝ち取ります。
なんだよ Christian。メイン、コンソレーション、ラストチャンスと全部一回戦負けじゃないか。もうちょっと勉強したほうがいいと思うぞ。
ファイナルの時間が来たのでトーナメント表の前にいってどこでプレーするのか誰かに聞こうと思っていたところ「Intermediate Final」の札が会場の一番前のテーブルに立っているのに気づきました。すでに相手の Lise が席についていました。
やはりと言うべきか、彼女は私の15インチボードを見るや否や「そんな小さなボードじゃイヤ」といって大きいボードを求めてきました。(もう思いきって大きいボードを買ったほうがいいのかなぁ。個人的にはこのサイズがすきなんだけど...。)そしてトーナメントで用意された18インチのボードを使うことにしました。そのボードにはプレシジョンダイス(precision dice)が付いていないので、Lise が個人で持っていたプレシジョンダイスを使うことにします。
もう試合開始前から周りには数人の観戦者がいます。この観戦者の半分は私か Lise のフィールドの Calcutta のオーナーで、このマッチの勝敗で彼らの手にする金額が約三倍変わってきますのでみんな当のプレーヤー二人並に真剣です。私のすぐ右隣には私のフィールドのオーナーのお年よりの人がぴったりくっついて、ゲームごとにスコアを確認してきました。すでにトーナメントを敗退したひとが最後までこうやってトーナメントを楽しめる、この Calcutta オークションというのは実にシステムだと思います。もちろんギャンブルの許されるこの Nevada 州だからできることなんでしょうが。
さて、私の相手の Lise Howard というスイスから来た女性は声は低めの切れのあるルックスで、見るからに強そうです。実はこの人はサイドイベントのダブルスで準優勝しています。(ちなみにダブルス優勝チームの一人はあのベアオフデーターベースの Hugh Sconyers。さもありなん。)相当の実力者でしょう。気迫も十分です。昨日の「観戦拒否」を受けたときからもう、私のこのファイナルでの対戦態度は決まってました。100% 「勝負師モード」です。一切の感情は捨てて、なにがあっても呼吸も乱さず、常に素早いキューブアクションをこころがける。もちろん熟考が必要な場面では十分時間をとる。 特に、私の早いキューブアクションはどうやら彼女に効果的に働いていたようで、その都度はっきり反応してくれました。私のキューブアクションに対して恐怖心すら感じていたように見えました。(正直言って、私はこれらのキューブアクションに自信があったわけではありません。ようするにハッタリです。学生時代にマージャンで鍛えたこのハッタリには自信ありです。)
最初の数ゲームで私が 6-2 とリードします。彼女は苦悶を隠し切れません。ここで最初の休憩します。本格的にプレーするひとはみんな負けているときにはこの「休憩」とするみたいですね。第三回戦を戦った Patrick Gibson も私に 9-1 と圧倒的なリードをされたときに一度休憩を入れました。はっきり言って私はこの「休憩」作戦の効果については懐疑的です。休憩をいれることでプレーの内容が変わるようなら技術力がない証拠ですし、休憩でダイスの出目が必然的に良くなると信じているならただの××です。だいたいこの「休憩」をいれることで、相手に対して自分が徹底的に不利ですとわざわざ宣言しているのと同じで、かえって相手に自信づかせてキューブアクションに冴えがついてしまうかもしれません。(普通リードしているとキューブが必要以上に遅くなりがち。このキューブが打つべき時に打てるようになるとリードされている側はしびれます。)もちろん、ニコチン中毒のひとは時々一服いれないとたいへんでしょうから長いマッチでは休憩も必要でしょうが。(あと当然お手洗いもね。)
この休憩時間中特になにもすることがないのでぼんやりとボード上を眺めていると、マッチの最初から私のすぐ右にぴったりとくっついて熱心に観戦していたお年よりの人が話し掛けてきました。「君は彼女より明らかに強い。君を信じているからな。」 ... とっても力が入ってます。激励ありがとうね、おじいちゃん。
休憩から帰ってくると、彼女はダイスの交換を申し出ます。私は素直にこの交換に応じますが、これも私が常にばかばかしい感じている行為の一つです。まず第一に、これは相手にたいして「おまえがイカサマをしている疑いがある」と暗にほのめかしていますので、あるいみでは失礼な行為です。たとえその意図が無いにしてもダイスの交換で出目が良くなると考えているようなら、もうただの宗教の世界です。
休憩・ダイス交換作戦が空振りに終わり、点差はさらに広がり 9-2 となります。とうとう彼女は2度目の休憩をいれました。そして休憩後は2度目のダイスの交換です。
やっと彼女は勝ち始めて、12ゲーム目にとうとうギャモンで4点勝って 10-9 と一点差まで追いつきます。彼女の表情に試合前の自信が戻ってきます。ふしぎなことに、感情を隠してプレーを続けていると本当に感情が薄れてしまうみたいで(いわゆる自己暗示みたいなものでしょうか)、このときも特別焦りを感じませんでした。この「勝負師モード」、自分に対しても効果的に働くようです。
その後しばらく接戦を繰り返しますが、とうとう 13-11 (2away-4away) という私の大好きなマッチスコアに到達しました。
観戦者の数が少しずつ増えていって、たしかこのマッチスコアになったときには十数人いたと思います。そして次のゲームが結果的に最終ゲームになりますが、そのゲームをプレーしている間にも続々観戦者が集まって(ラストチャンスで敗退してすることの無くなった人たちや、優勝が決定する場面でも見てやろうというひとたちがまた会場にもどってきたのでは)多分最後には(ちゃんと数えたわけではありませんが)20人はいたと思います。もちろん
Calcutta のオーナー連中は試合中一ゲームも欠かさず熱心に観戦してました。トーナメントマネージャーの何人かも内容を見に来ていました。
さて、この 13-11 (2away-4away) というマッチポイント、Kit Woolsey のオンラインマガジン GammOnLine の記事で5ポイントマッチの全てのスコアについてその戦略を一つ一つ説明した記事、その題名も Five Point Matchを何度も読み返してプレーの仕方を私なりに理解して覚えていたスコアで、特にリーダーがダブルを正当化するには大体 80% の勝率が必要だということです。(ギャモンチャンスが少しでもあるときは、事実上「決してダブルしない」スコア。)エクイティー表から計算するとダブルできる最低限のゲームの勝率は 78% ですが、どのみち勝率を頭で正確に計算できるような局面は限られていますので、80% として差し支えないでしょう。そして追う側は 17% あればリーダーのダブルをテイクでき、当然すぐにリダブルでそのゲームがマッチでの最終ゲームになるというものです。
ゲームは私のねらい通り、単純なランニングゲームになりました。私が少しリードしていますが、ダブルできるほどではありません。そしてお互いにベアオフを始めて、Lise に(何の目だったか覚えていませんが)悪い目が出て次のポジションになりました。なおこのポジションはこの私のエッセイの中で唯一、正確に実際にあったものを再現しています。(試合の後に忘れないうちにメモしておいたポジションです。)
このポジションをぱっと見てどう思いますか。ダブルできますか。ダブルならテイクできますか。
ゲーム中は常にダブルのチャンスを伺っていたためか、Lise の先のロールを見たときにすでに「来た!」と感じました。Jelly Fish でよく勝率を確認しながら遊んでいたおかげもあって、ベアオフでの勝率が大雑把でも感じられるようになっていたのかもしれません。私の勝率はこのポジションなら「80%は堅い」、さらに言えば「90%にかなり近い」と読んでいました。80%-90%で誤差が 10% とずいぶんいいかげんですけど、私のキューブアクションの判断にはこの誤差は関係がありません。とにかく 80% 以上ならダブルです。難しいのはテイクの判断です... ということは間違い無くダブルです。(有名な「テイクかパスか 100% 明らかでないときはダブル」という Kit Woolsey の法則がありますね。)
Lise がダイスを取り上げる動作とほどんど同時に、私は素早く2のキューブを差し出しました。
この瞬間に彼女がびくっとしたのを見逃しません。観戦している人たちも一斉に少し位置をかえて除きこみます。だれも音をたてません。周りではもうプレーしている人がほとんどいなかったためか、あたりは静まり返っています。このときの静けさは実に印象的でした。
余談ですが、この試合の終了後に私のフィールドの Calcutta のオーナーの一人が「あのとき君がダブルしたときはもう本当に心臓がどきどきしたよ。あのダブルは間違いだったのじゃないか」と言ってきました。そしてもう一人も「あれは怖かった」と漏らしてました。プレーしているわれわれ二人はもちろん、観戦者もみんながこのダブルにたいして彼らなりにいろいろと考えていたみたいです。
Lise は苦しそうに考えつづけます。それはそうでしょう。なにしろこのまま続ければ余程ダイスの出目が良くなければ、さらに私の出目が悪くなければきっと負けるだろうというのがはっきりしています。マネーゲームならまずテイクはありえないこのポジションですが、このマッチスコアのためにひょっとしたらテイクかもしれないというのはかえって苦痛でしょう。賞金の金額に細かい彼女のことですから、「この判断で $10850 か $3800 か(その差、実に $7000!!)が決まってしまう」とか考えていたのかな、などと考えながら Lise の苦悶を眺めていました。
多分彼女の長考は2分ぐらい続いたと思います。告白しますと、この Las Vegas Open で私がもっとも楽しかったと思ったのは実にこの2分間です。これだけの人数が集まってみんなが息を呑んでこのボード上を注視して、私の前では Lise がもだえ苦しんでいるこの場面。Lise の Calcutta のオーナー連中と友人たちも彼女に似た辛さを味わっていたことでしょう。私も当然「この後にダイスが悪ければ負けるかもしれない」という不安はありましたが、それはかえって心地よい緊張感になりました。私のかくれた残忍な本性をほどよく刺激し満足させてくれた最高のひとときです。
テイク!
観衆がまた一斉に少し動いたようです。私の次のムーブが終わって、Lise は当然ただちにリダブルします。その後の私の出目はあまり良くはありませんでしたがテイクから20秒もしないうちに、お互い特に大きなゾロ目をださずに1〜2ロール差で私が勝ちました。
ゲーム終了の直後に Lise と握手すると同時に一斉に観戦者の拍手がありました。バックギャモンを始めてから1年間で、試合のあとに拍手をもらったのはこれが初めてです。いいものですね。
「やったな Sho。」マッチの最初からその内容を注視してきた Christian がガッツポーズで祝ってくれました。その横に「Lise のボーイフレンド」氏がまるで自分が試合に負けたような悲しそうな表情で立ってました。