home 「007 振るのは奴のだ!」の巻 by 双六屋カゲゾウ

 隠密行動を旨とするのが諜報部員なのにな何故か世界で一番有名なスパイ(!?) ジェームズ・ボンド。コードネームは言わずと知れた007。バックギャモンの持つ スピーディーでスリリングな性質が映画のテーマに合うのか、第16作目「消された ライセンス」(1989年)にはオープニングのシーンでギャモンボードの模様が使 われています。(故・モーリス・ビンダーが最後に手掛けたタイトルバック)

 さて本題。007シリーズでは、ボンドと敵役とのファーストコンタクトのシーン にカシノがよく登場します。しかも大抵の場合、先に賭場に陣取っている敵役がカモ を丸裸にしているところです(イカサマ使用の場合が多い)。横でそこれ見ていたボ ンドはイカサマを見抜き、カモの後を引き継ぎでイカサマを逆手にとって敵役をへこ ますというのがこの映画のお約束となっています。第13作目「オクトパシー」(1 983年)にもこのお約束は踏襲され、しかもカシノでのゲームに我らのバックギャ モンが登場しています!

 ギャモンに興じる今回の敵役はインドの大富豪カルマ・カーン。裏では西側世界の 転覆を目論んでいます。対戦相手のカモはどこぞの軍事将校のようです。すでに負け が込んでいて大スチーム。「今度こそ運が向いてきたはずだ!」とカミカゼキューブ を打ちますが、カルマはあっさりテイク。そして要所で66しかでないイカサマダイ スをつかって、将校から金を毟り取っています。

 実はこのシーン、ギャモン関係者が見るとツッコミどころ満載なのです。例えばオ ンザバーの駒をリターンさせずに他の駒を動かしているなど…まあ瑣末なこと(でも ないのだが)はこの際無視。先に話を進めます。めざとくイカサマに気がついたボン ド。すでにリザインをした将校のゲームを引き継ぐとしゃしゃり出ます。ホントに良 いのかと訝しげな顔をするカルマだがそのオファーを許可します。そしてカルマはイ カサマダイスでロール!当然66です。次々にベアオフをします。

 9分9厘勝利を手中に収めたカルマはいわんこっちゃないとばかりにボンドをねめ つけますが、そこでボンドが一言。「そのすばらしい幸運を私にも分けてもらお う。」といってカルマのダイスを摘み上げると有無を言わさずロール!こちらももち ろん66。傍目からみれば奇跡の大逆転です。カルマは屈辱に耐えつつ小切手にサイ ンをします。

 恐らくこのシーンこそ最もツッコミがいのある場面。少しでもギャモンを知ってい る人間がカルマの立場なら誰でも叫ぶでしょう。

「おいおい、そのプレイはイリーガル(違法)プレイだから、自分のサイコロで振り なおせよ!」       

 これは至極正当な主張です。絶対にしなくてはなりません。なんとしてもこちらの イカサマダイスを使わせるわけにはいきません。しかぁし!カルマは唯々諾々とこれ を認めてしまいました。いったい…何故!?

 いくらなんでもこのカルマのブランダーはヒドイ、つうか「007映画製作者のみ なさんちょっとはギャモンの勉強してくれよ!」と思っていたのですが、ハタと僕は ある推測を思いついだのです。これに照らし合わせると、このシーンは製作者のミス ではなく、ボンドの深慮深謀だったのです。ええ、そうに違いありません。カルマが 振りなおしを要求できなかったりっぱな訳があったのです。その理由とは…

 ボンドは仮に自分のサイコロでの振り直しを要求された場合、イカサマを告発する だけでよいのです。地元の名士であるカルマはそんなことをされたらそれこそ面目丸 つぶれ、カシノへの出入り禁止どころかかいままで築きあげてきた地位と名誉までと ことん地に落ちることでしょう。ここは苦渋を飲んでもボンドに支払うしか道は残っ ていなかったのです。そう、ボンドが席についた時点ですでに勝負は決していまし た。チェックメイト、詰み、仕上がってます!さすがは国際謀略というゲームに身を 置き常に勝ちつづける(というかこの世界では文字通りのワールドクラス)ボンド。 バックギャモンで相手を負かすなどほんの朝飯前です。

 もっともこのあと怒り狂ったカルマはボンドに刺客を差し向けます。結果的にはお 金どころか命まで賭けてしまったゲーム(007にとってはこの手の危ない目は日常 ですが)そこはジェームズ・ボンド、追手を振り切り見事暗殺の魔手から脱します。 が、考えてみればそりゃそうです。諜報部員足る者、最も得意なのはランニングゲー ムに違いないのですから。


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