バックギャモンは五千年くらい前にメソポタミアで生まれたゲームである。日本にも 飛鳥時代には伝えられているから当時としては相当速いスピードで世界中に広まったの だろう。チェスがお国柄によって形態を変えていったのとは対照的に、このゲームは 不思議なことに何千年もの間その形式を変えずに伝えられてきた。だから世界中 どこへいっても言葉が通じなくたってバックギャモンが心をつなげてくれる。
僕がこのゲームのとりこになり、世界中の大会に参加するようになって十年が過ぎた。 旅をする度に仲間が増えていくのだが、新しい友人たちが決まって話題にするのは 最近彼らの地元にできた「ジャパニーズ レストラン」。日本食はとてもおいしく ヘルシーだ。特に寿司は大好物。毎日行きたいけど、一人百ドルもかかってしまうなんて話だ。この十年間の世界における日本食ブームは相当なものである。しかし僕は、 その努力には感心しても素晴らしいと思ったお店には出会っていない。
欧州での試合の合間、ジャパニーズ レストランで僕は彼らに提案した。「日本においでよ。本当の寿司をごちそうするから」。のりの良いのがバックギャモンプレーヤー、 その時の一人が友人を誘って東京に来たのは一か月後だった。僕はまず居酒屋で寿司を 頼むことから始める。二人ともこれはいけると大満足である。地元だと三十ドルは するらしい。そこで一言、「これって五ドルぐらいなんだよね」。「ワンダフル!」
日を変えて次は回転寿司。入るのも初めてなので、二人ともきょろきょろしてる。それも最初のうちだけで「グレート、グレート」と空いた皿を積み上げていった。かようにして少しずつレベルを上げながら食道楽を続けた。彼らが日本を去るときに「ジャパニーズ レストランとスシバーの違いがわかった」と言った事がとっても嬉しかった。
それ以来多くのプレーヤーが日本を訪れるようになった。囲碁が大好きな世界 チャンピオンは、武宮正樹九段とお手合わせができるならと自費でやってきた。 宇宙流「COSMIC GO」の武宮九段は西欧でも超有名人である。バックギャモンの 愛好家でもある九段が快くこの申し出を受けてくれ、碁盤を挟んだ二人の写真は、 世界を結ぶ囲碁とバックギャモンの輪と新聞で紹介された。
最近はインターネットの普及により国内でも愛好者が増えつづけている。どこに いても見知らぬ遠いだれかとゲームができるからだ。日本人トッププレーヤーも 世界で通用するようになった。四月のラスベガスの大会では五人も上位に入賞 してきた。世界チャンピオンの誕生も目の前である。
今新しい試みとして毎週火曜日に渋谷区代官山のオープンカフェで講習会を 開いている。おしゃべりや笑い声といっしょのバックギャモンの風景に、 道行く人たちもカフェでお茶をする人たちも物珍しげにのぞきこむ。その時 チャンスとばかりに僕は言う。「これがバックギャモンです。覚えてみませんか?」